世界一深い海「マリアナ海溝」の謎と最新の調査状況|地球最後の秘境を探る

自然

今回は、特に神秘的で謎に包まれた場所、「世界一深い海」であるマリアナ海溝(かいこう)についてご紹介します。

「海溝」って聞いたことはあるけど、詳しくは知らないな…という人も多いかもしれません。マリアナ海溝は、私たちが住む地表からは想像もつかないほど深く、暗く、そしてとてつもない水圧がかかる、まさに「地球最後の秘境」とも呼べる場所です。

この記事では、

  • マリアナ海溝ってどこにあって、どれくらい深いの?
  • そんな過酷な場所に生き物はいるの?
  • 人類はマリアナ海溝の謎をどこまで解き明かしたの?最新の調査ってどうなってるの?

といった疑問に、中学生の皆さんにも分かりやすくお答えしていきます。一緒に、深海の神秘と冒険の世界をのぞいてみましょう!

1.想像を絶する深さ!マリアナ海溝はどこにある?どれくらい深いの?

(1)マリアナ海溝はどこにある?

まず、マリアナ海溝がどこにあるのか見てみましょう。マリアナ海溝は、太平洋の西部、日本の南東方向にあるマリアナ諸島の近くにあります。ちょうど、フィリピンと日本の間くらいの海域です。

地図で見ると、細長い弓のような形をしているのが特徴です。長さは約2,550キロメートル、幅は約69キロメートルにも及びます。これは、日本列島がすっぽり入ってしまうくらいの長さですね。

 

(2)驚きの深さ!エベレストもすっぽり?

では、一番気になる「深さ」についてです。マリアナ海溝の最も深い場所は「チャレンジャー海淵(かいえん)」と呼ばれていて、その深さはなんと約10,920メートル!

…と言われても、なかなかピンとこないですよね。

例えば、世界一高い山であるエベレスト山の高さは約8,849メートルです。もし、エベレスト山をマリアナ海溝のチャレンジャー海淵に逆さまに入れたとしても、山頂からさらに2,000メートル以上も深いということになります。飛行機が飛んでいる高度(約10,000メートル)とほぼ同じ深さまで、海の底が続いているなんて、想像できますか?

 

(3)どうしてそんなに深いの?マリアナ海溝の成り立ち

こんなに深い溝が、どうやってできたのでしょうか? 地球の表面は、「プレート」と呼ばれる十数枚の巨大な岩盤で覆われています。これらのプレートは、とてもゆっくりですが、常に動いています。

マリアナ海溝は、「太平洋プレート」という海のプレートが、「フィリピン海プレート」という別の海のプレートの下に沈み込んでいる場所なんです。

重い太平洋プレートがマントルに向かって沈み込むときに、海底が引きずり込まれて、深い深い溝、つまり海溝ができるのです。

この現象を「沈み込み帯」と言います。日本列島の近くにある日本海溝なども、同じようにしてできています。

 

(4)深海の過酷な環境:真っ暗闇と超高圧の世界

マリアナ海溝の底は、ただ深いだけではありません。そこは、以下のような私たち地上の生物にとっては想像を絶するほど過酷な環境です。

  • 光が全く届かない「暗黒」の世界

太陽の光は、海のかなり浅いところまでしか届きません。水深200メートルを超えるとほとんど光はなくなり、1,000メートルを超えると完全な暗闇になります。マリアナ海溝の底はもちろん、漆黒の闇に包まれています。

  • 凍えるような「低温」:

海の深いところの水温は非常に低く、マリアナ海溝の底では水温は1~4℃ほどしかありません。一年中、冷蔵庫の中にいるような寒さです。

  • すべてを押しつぶす「超高圧」:

そして、最も過酷なのが水圧です。水の重さによってかかる圧力のことですね。水深が10メートル深くなるごとに、約1気圧ずつ圧力が増えていきます。マリアナ海溝の底、約11,000メートルでは、なんと約1,100気圧

これは、1平方センチメートル(だいたい指先くらいの面積)あたりに、約1.1トン(小型車1台分くらい)の重さがかかるのと同じくらいの圧力です。もし人間が生身でそこに行ったら、一瞬でぺしゃんこになってしまいます。

こんなにも厳しい環境なのに、驚くべきことに、マリアナ海溝には生き物たちが暮らしているのです。

 

2.真っ暗闇と超高圧!マリアナ海溝の過酷な環境と驚きの生命

(1)こんな場所に生き物が?深海に適応した驚異の生物たち

光もなく、寒くて、とてつもない水圧がかかるマリアナ海溝。普通に考えたら、生物が生きていけるような場所ではありませんよね。しかし、科学者たちの調査によって、この極限環境に適応した、ユニークで奇妙な姿をした生き物たちが発見されています。

彼らは、地上の生物とは全く異なる方法で、この厳しい世界を生き抜いています。

 

(2)どんな生き物がいるの?深海生物の例

  • カイコウオオソコエビ(海溝大底蝦)

写真出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/カイコウオオソコエビ

ヨコエビの仲間で、体長は数センチメートルほど。エビという名前ですが、白くて柔らかそうな見た目をしています。彼らは、深海に沈んでくる生物の死骸などを食べて暮らしていると考えられています。驚くべきことに、彼らの体にはアルミニウムを取り込んで殻を硬くする仕組みがあることが分かってきました。高水圧から身を守るための工夫かもしれません。

  • マリアナスネイルフィッシュ(シンカイクサウオの仲間):

2014年や2017年に発見された、比較的新しい種類の深海魚です。水深8,000メートルを超える場所で発見され、「世界で最も深い場所に生息する魚」として話題になりました。半透明でヒレが大きく、オタマジャクシのような、ちょっと変わった姿をしています。骨は軟骨のように柔らかく、体をゼラチン質のようなもので覆うことで、高い水圧に適応していると考えられています。餌は、カイコウオオソコエビなどの小さな甲殻類です。

  • 深海性のナマコ類:

ナマコの仲間も、深海ではよく見られる生物です。ゆっくりと海底を這い回り、泥の中の有機物(生物の死骸やフンなどが分解されたもの)を食べています。

  • 単細胞生物(微生物)

肉眼では見えない小さな生物たちも、マリアナ海溝の海底の泥の中などにたくさん生息しています。彼らは、太陽光の代わりに、地球内部から湧き出してくる化学物質(メタンや硫化水素など)を利用してエネルギーを作り出す「化学合成」を行っていると考えられています。このような微生物が、深海の生態系を支える重要な役割を担っているのです。

 

(3)なぜそんな環境で生きていけるの?

深海生物たちは、長い年月をかけて、高水圧、低水温、暗闇といった環境に適応するための、驚くべき進化を遂げてきました。

  • 体のつくり: 骨をなくしたり、体を柔らかくしたりして、水圧の影響を受けにくくしています。
  • 特殊なタンパク質: 高い圧力の中でも、体の中のタンパク質がきちんと機能するように、特別な構造を持っています。
  • 省エネな暮らし: 餌が少ない深海で生きていくために、動きを最小限にしたり、代謝(エネルギーを使う活動)を低くしたりしています。
  • 光の代わりに: 目が退化して見えなくなったり、逆にわずかな光でも感じ取れるように巨大になったり、自分で光を発する(生物発光)能力を持つものもいます。

これらの生物の研究は、生命がどれだけ多様な環境に適応できるのかを知る上で、非常に重要です。

 

3.人類はどこまで迫った?マリアナ海溝調査の歴史と最新技術

(1)深海への挑戦:マリアナ海溝調査のあゆみ

これほど深く過酷なマリアナ海溝を、人類はどのように調査してきたのでしょうか?その歴史は、まさに深海への挑戦の歴史でした。

  • 最初の到達(1960年): アメリカ海軍の潜水艇「トリエステ号」が、ジャック・ピカールとドン・ウォルシュの二人を乗せて、史上初めてチャレンジャー海淵の海底に到達しました。当時の技術でこれほどの深度に到達したのは、驚くべき偉業です。彼らは海底に約20分間滞在し、ヒラメのような魚(後に見間違いだった可能性も指摘されています)やエビのような生物を目撃したと報告しました。
  • 日本の挑戦「かいこう」(1995年): 日本の無人探査機「かいこう」もチャレンジャー海淵の海底に到達し、詳細な映像や試料の採取に成功しました。これにより、深海生物や海底の環境についての多くの新しい発見がありました。(残念ながら「かいこう」は後に失われましたが、その後継機が開発されています)
  • ジェームズ・キャメロン監督の単独潜航(2012年): 映画『タイタニック』や『アバター』で有名なジェームズ・キャメロン監督が、自身で設計した潜水艇「ディープシーチャレンジャー号」に乗り込み、単独での潜航に成功しました。彼は高画質の3D映像を撮影し、科学調査のためのサンプルも採取しました。
  • 近年の活発な調査: 近年では、技術の進歩により、より高性能な有人潜水艇や無人探査機(ROV:遠隔操作型無人探査機、AUV:自律型無人潜水機)が開発され、各国で活発な調査が行われています。中国の「奮闘者」号なども有人潜航に成功しています。

 

(2)最新技術で何がわかってきたのか?

最新の調査技術によって、マリアナ海溝について様々なことが明らかになってきました。

  • より精密な海底地形: 高性能なソナー(音波を使って海底の様子を探る装置)によって、これまで以上に詳細な海底の地形図が作られています。複雑な崖や谷、海山などが存在することが分かってきました。
  • 新たな生物の発見: 高画質のカメラやサンプリング技術により、次々と新しい種類の生物や、これまで知られていなかった生態が発見されています。深海の生物多様性は、私たちが想像している以上に豊かである可能性が示されています。
  • 地質活動の解明: 海底の岩石や堆積物を採取・分析することで、プレートが沈み込むメカニズムや、それに伴う地震発生の仕組みなどの解明が進められています。
  • 環境問題の影響も?: 残念なことに、最新の調査では、マリアナ海溝の最深部からもマイクロプラスチック(細かくなったプラスチックごみ)が発見されています。人間の活動が、地球上で最も深い場所の環境にまで影響を及ぼしているという事実は、私たちに警鐘を鳴らしています。また、深海に投棄された有害物質などの調査も進められています。

 

(3)今後の調査への期待と課題

マリアナ海溝の研究は、まだ始まったばかりと言っても過言ではありません。海底のほとんどは未踏であり、そこにどんな生物がいて、どんな現象が起きているのか、多くの謎が残されています。

今後の調査では、

  • さらに深くまで潜れる、長時間活動できる探査機の開発
  • 深海生物の生態を長期的に観察できるシステムの構築
  • 深海資源(レアメタルなど)の可能性と環境への影響評価

などが期待されています。

しかし、超高圧という技術的な困難さや、莫大な費用がかかること、そして何よりも、未知の深海生態系を壊さないように慎重に進める必要があるという課題もあります。

 

まとめ:まだまだ謎だらけ!マリアナ海溝研究が教えてくれる地球の未来

今回は、世界一深い海、マリアナ海溝について、その驚きの深さ、過酷な環境、そこに息づく生命、そして最新の調査状況までを見てきました。

  • マリアナ海溝は、エベレストも沈むほどの深さ(約10,920m)を持つ、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込むことでできた場所。
  • そこは暗黒・低温・超高圧という極限環境だが、カイコウオオソコエビマリアナスネイルフィッシュなど、独自の進化を遂げた生物が生息している。
  • 「トリエステ号」の初到達から始まり、最新の探査機によって、新たな生物海底の様子、そして環境問題の影響まで明らかになりつつある。

マリアナ海溝の研究は、ただ「世界一深い場所」を知るだけでなく、生命の限界や可能性、地球内部の活動、そして私たち自身の活動が地球環境に与える影響について、多くのことを教えてくれます。

深海は、宇宙と同じくらい、あるいはそれ以上に未知の世界が広がっている場所なのかもしれません。この記事を読んで、皆さんが少しでも地球の神秘や科学の面白さに興味を持ってくれたら嬉しいです。マリアナ海溝の謎が、これからさらに解き明かされていくのが楽しみですね!

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